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15 Jul 2021

量子アニーリング・コンピューターを使用して分離された創発的磁気単極子(モノポール)

 

プロジェクトは、創発、「設計による材料」、および将来のナノ磁石の研究に向けた新しいステップを提供します。

ニューメキシコ州ロスアラモス、2021715 ― ロスアラモス国立研究所(Los Alamos National Laboratory)の科学者たちは、D-Wave量子アニーリング・コンピューターをテストベッドとして使用することで、準粒子のクラスであるいわゆる創発的磁気単極子を分離して、「設計による材料」を開発するための新しいアプローチ法が作り出せることを示しました。

「私たちは、量子ビットの集合的ダイナミクスを利用することにより、創発的磁気単極子を研究したかったのです」と、この研究の主任立案者であるロスアラモスのクリスティアーノ・ニソーリ(Cristiano Nisoli)は述べました。 「1つの磁極しかない素粒子としての磁気単極子は、多くの人によって、そして有名なディラック(Dirac)によって仮説が立てられてきましたが、これまでのところとらえどころのないことが証明されていました」

彼らは、量子マシンの超伝導量子ビットを磁気ビルディング・ブロックとして使用することにより、人工スピン・アイスを実現しました。このようにエキゾチックな特性を持つ磁性材料を作り出すことは、多くの点で画期的なことです。単極子をトラップするためにガウスの法則を使用するこれらのプロセスは、科学者たちにこれらの量子活性化ダイナミクスとこれらの相互作用を観察できるようにしました。この研究は、磁気単極子が基礎となるスピン構造から創発できるだけでなく、制御もでき、分離もでき、そして、正確に研究できることを明確に示しています。

「ここ10年の間に、単極子が準粒子として創発され、さまざまな形状の励起スピン・アイスを表すことが可能であることが示されました。 以前は、ここロスアラモスにある国立高磁場研究所・パルスフィールド施設(National High Magnetic Field Laboratory’s Pulsed Field Facility)は、人工スピン・アイスの単極子ノイズを「聞く」ことができました。そして今日、D-Wave量子アニーリング・システムを利用して、これらの粒子の1つまたは複数個を実際にトラップし、それらを個別に研究するのに十分な制御が可能となりました。 私たちは、複数の単極子が歩き回り、ピンで留められ、反対の磁気電荷のペアで作成され、消滅するのを観察しました。したがって、定量的な理論的予測を確認することができました。それらは相互作用し、実際に相互にスクリーニングします」とニソーリ氏は述べています。

「D-Waveのプロセッサーは設計上最適化に優れていますが、量子シミュレーターとしても使用できます。 磁性材料の望ましい相互作用をD-Waveの量子ビット上にプログラミングすることで、他の方法では非常に難しい実験が実行可能となります」と、D-Wave社のパフォーマンス・リサーチ・ディレクターでこの論文の著者でもあるアンドリュー・キング(Andrew King)氏は述べています。「この共同の原理実証作業は、新しい実験能力を実証し、人工スピン・アイス研究の能力と多様性を改善します。創発準粒子をプログラムで操作する能力は、材料工学、さらにはトポロジカル量子コンピューティングにとって重要な側面になる可能性があります; それが将来の研究の基礎となることを願っています」

二ソーリ氏は、次のように続けました。「このアプローチはほんの一部にすぎません。以前の人工スピン・アイス・システムはナノ磁石で実現され、古典物理学に従っていました。代わりに今回のこの実現は、完全に量子的なものです。飛躍を避けるために、これまでは準古典的研究に集中していましたが、将来的には、これらの量子ゆらぎを実際にクランクアップし、デコヒーレンス、メモリ、量子情報、トポロジカル秩序という技術的に重要な意味を持つ非常にタイムリーな問題を研究することが可能となります」

「これらの結果は、特にDOE(米エネルギー省)とロスアラモスに関連する技術的影響もあり、特に設計による材料のアイデアにおいて、センシングと計算に高度で望ましい機能を示す可能性のある将来のナノ磁石を作り出します。バイナリ情報キャリアとしての単極子は、スピントロニクスに関連している可能性があります。また、ロスアラモスのD-Waveへの投資にも大きく貢献しています」とロスアラモスのアレハンドロ・ロペス=ベンザニラ(Alejandro Lopez-Benzanilla)氏は述べています。彼はD-Waveプロセッサーに取り組み、チームを編成しました。

さらに、実りあるアプリケーションに加えて、これらの結果はおそらく基本的な物理学への思考の糧を提供する可能性があると、二ソーリは示唆しています:

「私たちの粒子の基本理論は、パラメーター化されたモデルです。不思議に思うこと:それは、粒子とは何か?ということです。ここでは、粒子だけでなく、それらの長距離間相互作用も、最近傍でのみ結合された非常に単純な基礎構造の高レベルの記述になり得ることを、我々は実験的に示しています。レプトンやクォークなど、基本と見なされる「実際の」粒子や相互作用でさえ、量子ビットの束から創発する単極子のように、より複雑な低レベルのバイナリ基層の創発的な高レベルの記述として解釈できるのではないでしょうか?」

論文:Qubit Spin Ice, Science First Release

(https://science.sciencemag.org/lookup/doi/10.1126/science.abe2824) (online), 15 July, 2021. Andrew King,Cristiano Nisoli, Edward D. Dahl, Gabriel Poulin-Lamarre, Alejandro Lopez- Bezanilla. DOI10.1126/science.abe2824

資金提供:このプロジェクトは、ロスアラモス国立研究所主導の研究助成金の下で資金提供されました。

画像のキャプション:研究者は、D-Wave量子アニーリング・コンピューターをテストベッドとして使用して、創発的磁気単極子の動作を調べました。ここに示されているように、創発的磁気単極子は、超伝導量子アニーラー内の量子ビットの格子を横断します。境界の周りにプログラムされた非ゼロ・フラックスは、縮退した基底状態でトラップされた単極子を生成します。

ロスアラモス国立研究所 (http://www.lanl.gov/)について

国家安全保障のために戦略的科学に従事する学際的な研究機関であるロスアラモス国立研究所は、創設三メンバーが等しく所有する公共サービス指向の国家安全保障科学組織であるTriadによって管理されています:Triadは、すなわち、バッテル記念研究所(Battelle)、テキサスA&M大学システム(TAMUS)、およびエネルギー省の国家核安全保障局を代表するカリフォルニア大学(UC)の評議員たちです。

ロスアラモス国立研究所は、米国の核備蓄の安全性と信頼性を確保し、大量破壊兵器による脅威を軽減する技術を開発し、エネルギー、環境、インフラストラクチャー、健康、および世界的な安全保障上の懸念に関連する問題を解決することにより、国家安全保障を強化します。

D-Wave Systems Inc.について

D-Waveは、量子コンピューティング・システム、ソフトウェア、およびサービスの開発と提供のリーダーであり、量子コンピューターの世界初の商用サプライヤーです。 私たちの使命は、世界に向けて量子コンピューティングの力を解き放つことです。これは、ロジスティクス、人工知能、材料科学、創薬、スケジューリング、サイバーセキュリティ、障害検出、財務モデリングなど、さまざまな問題に対応する実用的な量子アプリケーションで顧客価値を提供することで実現します。D-Waveのシステムは、NEC、フォルクスワーゲン、デンソー、ロッキード・マーティン、USRA、USC、ロスアラモス国立研究所など、世界で最も先進的な組織で使用されています。本社はカナダのバンクーバーにあり、D-Waveの米国事業はカリフォルニア州パロアルトに拠点を置いています。D-Waveには、PSPインベストメンツ、ゴールドマン・サックス、BDCキャピタル、NEC株式会社、In-Q-Telなどの優良投資家ベースがあります。 詳細については、www.dwavesys.comをご覧ください。

 

 

プロジェクトは、創発、「設計による材料」、および将来のナノ磁石の研究に向けた新しいステップを提供します。