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22 Aug 2018

D-Waveのブレークスルーを、物質の位相状態の初めての大規模量子シミュレーションで実証

2018年8月22日

D-Waveのブレークスルーを、物質の位相状態の初めての大規模量子シミュレーションで実証

完全プログラム可能なアニーリング型量子コンピューターが、2016年のノーベル賞のうしろに控える現象をシミュレートします。低コストで素早い物質のプロトタイピングを可能とします。

バーナビー、ブリティッシュ・コロンビア、カナダ(2018822日)―  量子コンピューティング・システムとソフトウェアのリーダーであるD-Wave Systems社は、本日、2048量子ビット・アニーリング型量子コンピューターを使用して、トポロジカルな相転移を実証するマイルストーンとなる研究を発表しました。物質の複雑な量子シミュレーションは、時間と費用がかかる物理的研究及び開発をできるだけ減らすことに向けた大きな一歩となるものです。

「1,800量子ビットのプログラム可能な格子内のトポロジカル現象の観測」と題する論文が、査読済みの(論文を載せる)ジャーナルNature(Vol.560,Issue 7719,August 22,2018  https://www.nature.com/articles/s41586-018-0410-x)に発表されました。この研究は、この分野における重要な進歩を示しており、完全にプログラム可能なD-Wave量子コンピューターが、大規模な量子システムの正確なシミュレーターとして使用できることを再度実証しています。この研究で用いられた方法は、Richard Feynmanの量子シミュレーターのオリジナルのビジョンを実現することで、新材料の開発にたいして広大な影響を与える可能性があると思われます。この新しい研究は、量子スピングラス・シミュレーションにおける異なるタイプの相転移を実証しているD-Waveの最近のScience Magazine 論文(https://www.dwavesys.com/sites/default/files/qpt_synopsis.pdf)の上に立って行われています。この2つの論文は共に、最適化や機械学習などの他のタスクに加えて、材料の量子シミュレーションにおけるD-Wave量子コンピューターが柔軟性と汎用性を持っていることをよく表しています。

1970年代の初め、理論物理学者のVadim Berezinskii、J.Michael KosterlitzそしてDavid Thoulessは、自明ではない位相特性を特徴とする物質の新しい状態を予測しました。この研究は、2016年のノーベル物理学賞を受賞しました(*)。D-Wave社の研究者たちはD-Wave 2000Q™システム(/d-wave-two-system)をプログラミングして人工スピンの2次元フラストレーション格子を形成することによってこの現象を実証しました。このシミュレーションされたシステムにおける観測された位相特性は、量子効果なしでは存在できず、理論的予測と極めてよく一致するものでした。(*)注:2016年ノーベル物理学賞については次を参照してください―https://www.nobelprize.org/prizes/physics/2016/summary/  。

「この論文は、本質的にシミュレーションがおそらく不可能な物理システムをシミュレートできるようになったというブレークスルーを表しています」と、ノーベル賞受賞者のJ. Michael Kosterlitz博士は言っています。「このテストでは、期待される結果のほとんどが再現されており、これは目覚しい成果です。このことは、将来の量子シミュレーターが、もっと複雑で理解しにくいシステムを探求し、物理システムのモデルとしてシミュレーション結果を定量的な細部で信頼できるようになるであろうことを期待させます。私はこのシミュレーション法によるアプリケーションの将来を見ることを楽しみにしています」

D-Wave社のチーフ・サイエンティストであるMohammad Amin博士は次のように述べています。「Natureの論文に掲載されている研究は、量子計算の分野におけるランドマークです: 最初、実際の磁性材料で実証される前の量子シミュレーションにより物質の状態が理論的に予測されます。これは量子シミュレーションの目標を達成するための重要なステップであり、研究所内で材料を作成する前に材料特性を調べることが可能となります。材料特性を調べることは、今日、非常にコストと時間のかかるプロセスです」

「D-Wave量子コンピューターでノーベル賞受賞の物理学の重要性を実証したことは、それ自体が重要な成果です。今回の新しい研究は、Scienceで発表されたD-Waveの最近の量子シミュレーション研究と組み合わせて、さまざまな分野で認識され難しい問題に取り組むためのシステムの柔軟性とプログラム可能性を示しています」と、D-Wave社のCEO、Vern Brownellは述べています。

「Kosterlitz-Thouless転移のD-Waveによる量子シミュレーションは、極めて興味深くかつインパクトのある結果を出しています。それは、量子磁気学における重要な問題の理解に貢献するだけでなく、スピン・システムの新しくかつ効率的なマッピングを伴う計算上非常に困難な問題を解くことを実証して見せてくれました。また、必要とされる量子ビット数の限られているなかで、より広い範囲のアプリケーションを解くための新たな可能性を切り開いていくことでした」と、ロスアラモス国立研究所の科学、技術、工学の主任准ディレクター、John Sarrao博士は語っています。

「同じ量子プロセッサーを使って、私たちがScienceNatureに報告したように、2つの非常に異なる量子シミュレーションを実証して見せた能力は、D-Wave量子コンピューターのプログラマビリティと柔軟性を示しているものです」と、D-Waveで働く主任研究者のAndrew King博士は言っています。「このプログラマビリティと柔軟性は、リチャード・ファインマンの量子シミュレーターの元のビジョンの中における2つの重要な要素であり、将来もっと複雑なエンジニアリング量子システムの動作を予測する可能性を切り開いていくものです」

NatureScienceに掲載された成果は、さまざまな分野にまたがる現実世界のプロトタイプ・アプリケーション(「プロト・アプリ」)上で、世界的な顧客やパートナーとD-Wave社の継続的な研究によるものです。顧客が開発した70以上のプロトタイプ・アプリケーションは、最適化、機械学習、量子物質科学、サイバーセキュリティ、および、その他の分野にも及んでいます。プロト・アプリの結果の多くのものは、D-Waveシステムが、商業化前の規模で、実際の問題でのパフォーマンスや解の質の点で、従来のコンピューティングに近づいていて、時にはそれを上回っていることを示しています。D-Waveシステムとソフトウェアの能力が拡大するにつれて、これらのプロト・アプリは、量子コンピューター上で規模の拡大する顧客アプリケーションに対応可能であることを示しています。

Natureで今日発表された論文はここで(https://www.nature.com/articles/s41586-018-0410-x)見ることが出来ます。概要はここを(/sites/default/files/kt_synopsis_0.pdf) 読んで下さい。