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12 Jul 2018

D-Waveがプログラム可能な大規模量子シミュレーションを実証

2018年7月12日

D-Waveプログラム可能な大規模量子シミュレーションを実証

結果は、ピアレビュー(同分野の専門家から査読された)ジャーナルのScienceに掲載された

バーナビー、カナダ・ブリティッシュ・コロンビア2018712日) 量子コンピューティング・システムとソフトウェアのリーダーであるD-Wave Systems社は、査読済みの(論文を載せる)ジャーナルScience[Science, July 13, 2018 (http://science.sciencemag.org/cgi/doi/10.1126/science.aat2025)] に、科学的に大きい意味を持つ結果が掲載されたことを発表しました。「プログラム可能な量子スピン・グラス・シミュレーターの相転移」というタイトルのこの記事は、横電界イジング・モデルと呼ばれる特定の量子力学系内での相転移を予測するためにD-Wave 2000Q™量子コンピューターをどのように使用したかについて詳述しています。この研究は、完全にプログラム可能な量子コンピューターによって対処される問題のサイズおよび複雑さに関して、それらを大幅に改善する仕事でした。D-Waveシステムは、スピン間の個々の相互作用をプログラムする(値を与える)ことができますが、一方、これまでの他の量子デバイスによる研究では、これらの相互作用を個々にはプログラムできないシステムの研究に限られていました。

Scienceの記事で述べられている研究では、研究者たちは2048量子ビットのD-Wave量子コンピューターを使って、8×8×8(512量子スピン)までの3次元単純立方格子上の横電界イジング・モデルを研究しました。磁気相、そしてもっと重要な相転移が、量子力学的エネルギー・スケール、スピン間の相互作用の強さ、プログラム可能な相互作用間の無秩序さの関数として、3次元空間内で正しく同定されました。

ロッキード・マーチン社のチーフ・サイエンティストでコーポレート・シニア・フェローであるE.H. ‘Ned’ Allen博士は、Scienceに掲載のこの研究についてコメントしています:

過去2年間にわたり、D-Wave社の科学者とエンジニアたちは、科学的コンピューティングという初の目標-すなわち、シミュレーターとして使用される正確に制御された量子コンピューターによって自然界にはない真に新しい物質の相挙動の特徴付けという目標-を達成しました(次を参照のこと:R. Harris et al, Science, July 13, 2018 (http://science.sciencemag.org/cgi/doi/10.1126/science.aat2025))。量子コンピューティングの専門家が求めている「量子超越性(quantum supremacy)」のデモンストレーションではなく、果敢に挑戦した問題は今日の先進技術部門にとって直ちに重要な意味を持つ問題であり、量子コンピューターにとって最初の真に有用なアプリケーションでした。Harrisグループの仕事の重要な貢献は、新しいシステム設計の振る舞いを、最初から完全に理解していなくても、探る方法を示しているということです。普通は、私たちが役に立つデジタル・シミュレーション・コードを書くときには、最初にそれらを完全に理解している必要があるのですが。よって、この論文で紹介されているD-Waveのツールは、解析だけでなく、初期段階の概念化や発明にも役立っているのです。

D-Waveの科学者たちによると、この作業は次の点で重要です:

  • 量子力学的エネルギー・スケールの関数として相転移を実証することは、D-Wave量子システムが量子シミュレーションを実行できるという強力な証拠です。
  • 埋め込まれた3次元システムは、その接続の仕方がQPU(量子処理ユニット)内の量子ビットの物理的レイアウトの接続とは大きく異なっていましたが、期待どおりに動作することをこの結果は示しています。
  • この研究で使用された実験技術は、観察された相転移の近傍における量子力学的自由度の間の長距離相関のシグネチャーを探索するための新しい研究に動機を与えています。このような相関は科学的関心だけでなく、D-Wave社の量子コンピューターを広範な商業的実用の計算問題に使用する際の計算上の長所を実現するために重要であると期待されています。

D-Wave社のCEOであるVern Brownellは次のように述べています。「この研究は、量子コンピューティングにとって重要な節目となります。なぜならば、この種の物理学が、このような大規模問題をスケーラブルなアーキテクチャーで初めてシミュレートすることが出来たからです。これは、また、アニーリング量子計算―これは、まさにD-Waveの量子技術の基礎となっているものですが―の検証それも前例のない検証を可能とするものです。」

1982年、理論物理学者Richard Feynmanは、計算上困難な量子力学問題を研究する量子コンピューターとして、工学的量子システム―いわゆる量子シミュレーター―の使用を提案しました。Feynmanによってもたらされたこの重要な洞察は、その核心において、自然は量子力学であり、そのシミュレーションを実行するコンピューターが同じように量子力学で動くのであれば、自然をシミュレートすることははるかに効率的になるだろうということです。多くの量子力学の計算は、それが控えめなサイズのシステム(系)の計算であっても、古典的デジタル・コンピューティング技術を使用して解くことは困難であり、一方、量子コンピューターはこれらの計算タスクを比較的容易に成功裏に行うことができます。したがって、実用的な大規模量子コンピューターは、科学と工学の多くの分野を進歩させるために使用できる鍵となる技術となることでしょう。