2 Feb 2018
シンギュラリティ・ハブ: 量子コンピューターは、なぜソーシャル・イノベーター(社会革新者)にとって驚くべきツールとなるのだろうか
ダーリーン・ダム - 2018年2月1日
ほとんどの人々は量子コンピューターが使えるにはまだ数年はかかるだろうと考えていると思いますが、あなたがバンコクでタクシーに乗る次の機会では、おそらくそれは量子コンピューターと強く関係づけられているのです。豊田通商とデンソーは、クラウド・ベースのD-Wave量子コンピューターを使用して、バンコクの130,000台のトラックとタクシーの時々刻々のトラフィック・データを最適化する計画を最近発表しました。
量子コンピューターは、まだ、車両をリアル・タイムで誘導することはできませんが ― リアル・タイムの誘導は、アプリケーション・プログラムがドライバーにどこへ向かえと伝えたり、あるいは、自律的な車ネットワークに指示を送信したりすることを通して行われる論理的には次のステップになるでしょう ― このプロジェクトは、量子コンピューターが、どのように私たちの日常生活に遠からず入って来るかを示す興味深いものです。さらに、このプロジェクトは、D-Wave社によって作られた機械あるいは類似の機械が ― 量子アニーリングにもとづく機械ですが ― 最適化とロジスティクス(物流)の場面で優れている機械であることを示す重要なデモになります。
明らかに、量子コンピューターはまだ実際のアプリケーションでその能力を十分には証明されていませんが、ここで述べているような実験の数々は量子コンピューターの能力を証明することを前へと進めています。 結局、糸のもつれが解きほぐされるように、量子コンピューターは科学研究からビジネスまでにわたり幅広く強い影響力を持つでしょう。しかし、問題解決の特別な能力から利益を得ることができるもう一つの領域もあります:それは、社会に対する強い影響力です。
このことは次の3つの理由で真実です。
第1に、量子コンピューターは、社会的な多くの課題の根本原因となっているロジスティックおよび最適化問題を解決することに優れていることです。 第2に、量子コンピューターはデジタル技術であることにより、ソーシャル・イノベーターや非営利団体にとって、ますますアクセスしやすくかつ手頃な価格となっていくだろうからです。 第3に、量子コンピューティングは非常に強力なので、最初にそれを強く受け入れる人々は、自分の価値観や倫理哲学を世界規模で広げる機会が持てるからです。
これらのそれぞれについてもう少し詳しく掘り下げてみましょう。
量子コンピューターはロジスティクス問題の解決に向いている
多くの社会問題はロジスティックと最適化の問題です。 私たちはどのようにして、商品、サービス、または、人々を、適切な場所に速やかにかつ効率的に運ぶのでしょうか? あるいは、私たちは、気候、コレラの伝染、または、我が環境の何か他の要素が時間とともにどのように振舞うのかを、どのように予測するのでしょうか?
D-Wave社の2,048量子ビットを持つ最新の量子コンピューターは、相互関連する変数間の膨大な量(ケース数)の計算をほぼ即座に取り扱うことが出来ます。
バンコクの交通事情に対して量子コンピューターを戦わせることは、このような機械に何をさせたらよいかという点の手掛かりになるものです。
たとえば、このコンピューターは、各車両が任意の与えられた瞬間にとるべきすべてのルートを予測し、他のすべての車両との関係で各車両の最も効率的な道筋をプロットすることができます。しかし、それは交通だけのことではありません。この最適化はまた、燃料使用量、汚染、自動車事故を減らし、あるいは、混雑した市内を通る救急車、消防車、警察車両の移動の流線長を短縮する可能性があります。自然災害があった場合、このコンピューターは人々を迅速に避難させたり、緊急避難所に誘導したりすることができます。交通データは、誰に対しても各人向きにかつ最適化できるように、ドライバーの病歴や家族の住所などの他のデータと組み合わせることができるでしょう。
いろいろな意味で、これまでに決して無かったコンピューティング・パワーを何に使えばよいのかと想像するのは私たちにとって難しいことです。 しかし、量子コンピューターは人間が新しいスケールで活用することを可能にするものでしょう。
自然災害に備えるため、農業を改善するため、または、マイクロ・レベルで天候を管理するため、天候と気候データをよりよく追跡することができるようになるでしょう。 生活習慣、遺伝、環境要因などを考慮して、この地球上の全員に各個人向けの薬剤を提供することが出来るようになるでしょう。 量子コンピューターは、犯罪、暴力、紛争を予測し予防するために、ソーシャル・メディアやその他のセンサーからデータを収集することができるでしょう。 ロスアラモス国立研究所は、量子コンピューターがテロリスト・ネットワーク形成を検出することが出来るかどうかその潜在力を模索しています。
従来のコンピューターではこれらの問題の一部を追跡することはできますが、量子コンピューターは、ひとたびデータが収集され、ソフトウェアがプログラム化された後は、ほとんどエネルギーを必要とせずに、測りがたいほど膨大なデータを瞬時に計算することができます ― そして、この能力に誰でもインターネット接続でアクセス可能なのです。
量子コンピューターは、ますますアクセスしやすくなり、手ごろな価格になるでしょう
情報化時代初期のコンピューター使用は高価でした。 機械は、購入するのに費用がかかり、わずか数人しかコンピューター・サイエンスやプログラミングの高度なトレーニングを受ける余裕がありませんでした。 ここ数十年、私たちはこの変化が劇的に起こるのを見てきました。 コストは下がり、ますます多くの人々がインターネットにアクセスでき、ソフトウェアはさらに使い易いものになっています。
今日の量子コンピューティング企業はすでにこの方向に向かって取り組んでいます。 これらの企業はオープン・ソースのソフトウェアを作り、量子コンピューターの仕組みに関する無料のビデオやチュートリアル(独習用教材)をインターネット内に用意しています。 マイクロソフト社の量子開発キットは、ソフトウェア技術者やコンピューター科学入門を習得した人たちが使用することができます。 そして重要なのは、多くの人たちは、コンピューターそのものを売るのではなく、インターネットを介して量子コンピューターをアクセスする時間を売ることを目指しているということです(もっとも、特定の顧客が自分用のコンピューターを購入することも勿論可能です)。
量子コンピューターはクラウドの中に設置されているので、非営利団体、財団、政府、国際援助機関が、量子コンピューターに即座にアクセスできます。量子コンピューターの最初のテストの1つがタイ国で行われ、それが世界のもっと裕福な国の1つでなかったことは、おそらく、このことを物語っています。量子コンピューターを使用することは、インターネットさえあればどこででも利用可能です。
量子コンピューティングは、ソーシャル・イノベーターに先導のチャンスをもたらします
量子コンピューティングは新しいレジーム(領域)であり、非常に強力であるため、技術的改善を提供してくれるだけでなく、新しいプレーヤーを業界に呼び込む機会も提供してくれます。都市を走る自動車とタクシーの流れを管理する量子コンピューターは、システムを技術的にもっと効率化するだけでなく、汚職、警察の問題、相乗り車からの吹っ掛け料金、等々の問題をクリーンにするために取り組む新しい方法を提供してくれます。
ブロックチェーン(Blockchain:分散型台帳技術、または、分散型ネットワークで、データベースの一形態)は、その技術的な可能性のためにエキサイティングなだけでなく、新しいプレーヤーが ― 立ち上げからイーサリアム財団(Ethereum Foundation)に至るまで ― が何十年にもわたって締め出されていた後に、財務やロジスティック業界に参入できるようになったからでもあります。同じことが量子コンピューティングについても言えます。
強力な倫理および社会的アプリケーションを持つ組織が早期にこの量子コンピューターの分野に参入することが特に重要です。 量子コンピューティングは強力であると同時に、暗号の解読、金融市場を揺さぶること、ギャングや暴力グループ間の秘密通信を容易にすることなど、悪意ある目的に利用できるようにもなるからです。
現在、量子コンピューターはより多くの主だった顧客によってテストされ、使用される用意ができているところですが、同様に開発がさらに進むにしたがって、ソーシャル・イノベーターが前進し先導することが重要になって来ます。
ダーリーン・ダムはシンギュラリティ大学(Singularity University)のグローバル・グランド・チャレンジ(Global Grand Challenges)学部の副学部長兼教授です。 彼女はソーシャル・イノベーションの分野でほぼ20年間にわたり組織とイニシアティブを率いてきました。
2012年には、宇宙技術をクラウドソーシングする最初の会社であるDIYROCKETS社(http://www.diyrockets.org/)を設立し、2011年には世界初のドローン無人機を使用するMatternet社(https://mttr.net/)の初期共同創設者を務めました。………